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踊るキューバ Ⅱ・第1話 マンゴー

キューバエッセイ・踊るキューバ2の挿絵カット(キューバ人モデルの後ろ姿)

写真と文・小町剛廣
(この原稿は2003年に連載していたものです。
当時の臨場感を出すためにそのまま掲載しております)

「カサカササカサ…」

目を開けると、真っ青な空にいつの間にか
出てきた大きな白い入道雲、
そしてマンゴーの木が目に入った。

マンゴーの木の葉っぱが、
風にゆっすら、擦れる音であった。

キューバにいる時、よく昼寝をする。

理由はふたつある。
ひとつは、日本に 居る時では味わえない、
この上ない快感を感じられ、もうひとつは、
夜の為 にエネルギーを養っておく必要がある。

キューバに限らず、ラテン系の国の人々は、
昼間は生きる為、夜は人生を楽しむ為とはっきり二分している。

ハバナで過ごす時、ホテルでの滞在に
飽きてしまうと私は、友人の家に出かける事にしている。

彼の名はモンギといい、かれこれ7、8年のつきあいになる。

モンギとは本名なのかあだ名なのか、私は今だにわからない。
友人といっ ても、年も20才以上離れていると思う。
確かな年齢は聞く度に違うので、聞かない事にしている。

ただ、どんな時でも、人なつっこくそして優しく私を迎え入れてくれる。

そんなモンギの家の庭で、ハンモックを吊ってもらい、
昼寝から目が覚め、ぼーっとマンゴーの
木を見ていたら、実がなっているのに気づいた。

7月前後は、至る所でマンゴーがなっている。

キューバでは、いくつものマンゴーの種類があり、
モンギの家になっていたのは、
その中でも一番大きな実がなる種類のものであった。

こだまスイカぐらいはあるであろう。
色は日本で見る桃のように美しいピンク色をしている。

思わず「モンギ、食べようぜ」と言ったら、
モンギが「もうちょっと待て、だ少し早い」と言った。
泣く泣く私は 食べたい気持ちを抑えた。

また、モンギにはもう一つ素晴らしい技術 がある。
どんな女の子とでも、一瞬にし て仲良くなって
しまう術を持っている。
私はその術に毎回びっくりさせられ、
不思議とそんなモンギに、ラテンの男を感じてしまう。

その日の夜も、彼と一緒にサルサクラブへ出かけた。
当然、男二人なのでお互いのパートナーになる女の子を探し、
私はテーブル席でなく、奥の方に立っている、
目のぱっちりした混血の女の子を見ていた。

また、彼女はヒップラインがはっきりわかる
ショートパンツを履いており、リズムに合わせて
身体を動かし、その都度、私はウエストからお尻に
かけてのラインが気になってしょうがなかった。

そんな時、モンギは機転を利かして、
すぐ私とその子を自然に近づけてくれる。

訳のわからぬ速さのスペイン語で
女の子の耳元で何かを言うと、その子は、
私に向かって、ニコッと笑ってくれた。

「モンギ何言ったんだろう?」と思ったが、
まぁいいかということで気持ちは女の子の方へ傾いてゆく。
彼女の名は私はラチュエルといった。

スペイン人の母と、混血の父を持つ、白人に
近い混血の女の子であった。子供の頃、バレエを
やっていたらしい。

あのしなやかなボディラインをしているの
そのせいだななどと思いつつ、
だんだん私の気持ちは高揚していく。

特に私は、足元が気に入った。
彼女と一緒に踏むサルサのステップは、
どんくさい私のステップまでを、スマートに誘導してくれる。

サルサでは身体が密着し時には、キスをする程の
距離まで顔を近づける事もある。
そんな時、ラチュエルのほのかな香りと
彼女の愛くるしい瞳に自分が抑えられなくなりそうになる・・・・。

またまたそんな時、モンギがすかさず
私のそばにやって来て、ひと言…

「もうちょっと待て。まだ早い」と私に言った。
泣く泣く私は渇望した気持ちを抑えた。

翌日、モンギの家に寄り、マンゴーの木を見たら、
マンゴーは全て刈られていて、一つも実が残ってなかった…。

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