写真と文・小町剛廣
(この原稿は2001年に連載していたものです。
当時の臨場感を出すためにそのまま掲載しております。)
週刊 ジャーフル・連載第7回
ーサルサは限りなく前戯に近い(後編)ー
「……」
声も出せず、より強い衝動に駆られたまま、
高い所から物が落ちていく以上に、速いスピードで
彼女の瞳の中に吸い込まれてゆく自分がいた。
途中、ほとんど彼女は喋らず、
唯一「よく音楽を聴いて!」とだけ言った。
時折、リズムを外す私に助言する意味で
言ったと思っていたが、彼女は何も考えていなかった。
ただ、ひたすらサルサのビートを耳と体で感じ、
ステップを踏み、あとはそのリズムで体を揺らし
ながら快楽へと自らを導いているようだった……。
だんだん彼女の顔が感じているようにも見え、
色気を感じる。何曲か踊って、彼女と着席すると、
我ながら映画のワンシーンにいるような錯覚に陥すると、
「KOMACH SAN 」と声ををかけられた。
彼の名はレーモン。私がキューバを最初に
訪れた時のガイドだった。
日本語は今ひとつなのだが、
とても世話好きのナイスガイである。
彼は10人ほどの団体のガイドをしていたが、
私のそばへやって来て
「KOMACHISAN、あまり時間ありません。
もっとサワイデください」
と言った。
私は、うっとりしているマエリーンの姿を見て、
彼女が少々退屈になったんだな……と思い、
慣れないスペイン語で一生懸命会話を盛り上げた。
彼女はそんな時も、サルサのビートを体で感じ
ニコニコしてい 踊っている時とは明らかに
表情が違っているように感じた。
少ししてまた、彼女と一緒に踊った。
最初に踊っていた時より、彼女の
顔が、より一層色気を増し、ビートが激しくなると、
向かい合わせから彼女はくるりと回り、腰を激しく振り、
お尻を私に押しつけてくる。サルサ特有の離れたり、
くっついたり、回したりというステップの中で、
彼女の息づかいを耳元で感じながら、
彼女が、私の手を腰に肩に顔にと誘導する。
彼女の顔は、完璧に何も考えてなく、ひたすら
快楽へと向かっている。と同時に、私の頭の中も
真っ白になり、より深い官能の世界へつき進み
マエリーンを五感すべてでとらえていた。
サルサは限りなく前戯に近いと思った。
サルサは見ているだけでもとても気持ちが晴れるが
やはり見ているのと踊ってみるのでは、
雲泥の差がある。その時、
下手な日本語で言われた
意味がわかった。
「KOMACHISAN
あまり時間ありません。 もっとサワッテください」