濃厚な甘みやバニラや果物のような香りと
高貴なアルコールの香り
手前の工房と奥の工房では全くと言っていいほど、香りと空気感が異なっていた。
仙人と話をしていくにつれ、その理由がわかる。
先程、泡盛は瓶内熟成をしていると書いたが、もちろん甕でも熟成ができる。
というより甕内熟成の方が断然、熟成が早く、素晴らしい。
仙人にそのことについて詳しく聞いてみると・・・
「甕が持つ土(大地)の力、そこから高い温度で焼かれ、作られる。
出来上がった後でも甕は呼吸をし続けている」
「瓶内熟成と甕内熟成の違いは呼吸ができるどうかで進行が変わるのだ。」
瓶は密閉度が完璧で外部とは一切呼吸ができな形での熟成に対し、
甕は微妙に呼吸をしているとのことである。
わかりやすく言えば、甕は微妙に漏れているというか微妙に蒸発しいてる。
それが工房内の空気と混ざり独特の香りを醸し出していた。
今までにこんなに優しく、上品な泡盛を感じたことはなく、
包みこまれるような思いにかられる。
仙人が命名した「黙々100年塾・・・・」はこの香りが放つ黙々とした時間なのかもしれない。
古酒の話になると今までの仙人の目とは変わり厳しく、鋭くなる。
「 最初はあまり考えずに甕の中で泡盛を寝かせておけば良いのだと思っていた。
ある日、古酒作りのベテランと出会い、自分の泡盛を飲んでもらい、
どうですか?と聞いたら、これは古酒ではないと言われた・・・」
「ショックで何がダメですかと聞いたら、仕次ぎのしかた、
そして細分に渡るデリケートさと愛情が足りない・・・」
と仙人は苦い経験を語り始めた。
仙人の師匠は謝那覇さんという方とのこと。
泡盛の仕次ぎのやり方は人それぞれだが仙人の仕次ぎは謝那覇さんから受け継いだものになる。
泡盛の仕次ぎとは7年間くらい寝かした古酒を少し出して呑む。
そして飲んだ分だけ6年位寝かした古酒を継ぎ足して(仕次ぎ)おく事である。
仙人の失敗は7年間から8年間寝かした古酒を少しだけでなく半分ほど出して
振舞い酒として仲間と飲んだ事であった。
謝那覇師匠のおしえは一年間で熟成甕の中から出して良いのは全体の1割。
それから仙人は毎年ある月のとある間で仕次ぎを行うようにしている。
メインとなる親甕(古酒28年もの-正確には31年もの。最初に入れているのが3年ものの古酒なので)
から1割出して1合瓶へ何本も入れて振舞い酒としてその年にたしなむ。
1割減った親甕へ子甕(古酒27年もの)から同じ量(1割)を入れる。
同様にして子甕へは孫甕からそして孫甕にはひ孫甕から・・・・・合計27回ほど行う。
ちなみに銘柄は全て同じ泡盛を使用する。
そして新酒は使用せず最後に継ぎ足す古酒が買ってきたばかりの3年ものになる。
泡盛を寝かせておけば古酒ができるのではない。
これが古酒を育てていくという「仕次ぎ」。
メインの親甕に向けて一年間呼吸をしてきた泡盛たちが成長して次の甕へ移動していく。
沖縄の家族(血)の構成と似ていると感じた。
確かに泡盛愛がないと上手い古酒が生まれない。
そして仙人が大切にしている細部までに行き渡る
デリケートな作業を見せてもらえた。